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地球が暑くなるとお米がとれなくなる?温暖化が進む現代でいま、私たちにできることとは


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日本の夏が数十年前よりもずいぶん暑くなり、
最近は猛暑でお米の不作が話題になることも増えました。

この先地球温暖化など気候変動が進んだら、
日本のお米はどうなってしまうのでしょうか?

日本の農業と食品産業の発展のため、
基礎から応用まで幅広い分野で研究開発を行っている研究機関・農研機構で
農業気象学や環境モデリングに取り組む西森基貴さんに、
地球温暖化が米づくりにどんな影響を与えるのかを聞きながら、
私たちにできることはあるのかを考えてみました。

西森 基貴(にしもり もとき)さん

農研機構 農業環境研究部門 気候変動適応策研究領域 研究領域長

高知県に生まれ、親戚の農業を手伝って子ども時代を過ごす。台風の被害を受けやすい土地だったことから気象に興味を持ち、大学院では地理学・水文学を専攻。専門は気候学、農業気象学等。現在は研究領域長としてとりまとめを行なうと同時に、出身の高知県を中心に、イネモデルによる生育診断を通じた地域の振興や問題解決にも取り組んでいる。

ソラミドごはんくん

ごはんが大好き!
ちょっぴりヒツジに似たごはんの妖精。好奇心旺盛で、ごはんのことなら何でも知りたい!聞きたい!見てみたい!と思っている。

暑い夏のせいで、お米の収穫量は減ってしまう!?

ごはんくん

日本の夏が暑くなって、お米の不作のニュースをよく聞くようになりました。地球温暖化が進んでいくと、これまで食べてきたお米はなかなか手が届かない貴重なものになってしまうのでしょうか?

西森さん

確かに温暖化の影響はあって、極端に暑い年があると収穫量(収量)の減少は、一部の地域で起こっています。2023年はとても暑い夏でした。そのせいで、品質の指標の一つである“白未熟粒”など質の悪い米粒が増え、一等米比率(正常に熟し、色や形の面で優れ、異物などが混入していない玄米の割合が70%以上)が下がってしまいました。ただ、米全体の収量を表す作況指数というものがありますが、2023年は日本の平均が101でだいたい平年並み。下がったのは一部地域で、特に暑さに強くはないコシヒカリでのダメージが大きかったんです。

ごはんくん

お米はあるけど良いお米が少ないということかな?でも毎年暑い気がして、去年がそんなに特別暑かったとは気づきませんでした。

西森さん

2023年に影響が大きかったのが東北地方の日本海側、それから新潟県の一部ですね。昨年の一等米比率は全国平均が60%で例年より確かに少し低いのですが、例えば新潟県のコシヒカリは例年80%くらいあるのに、2023年は約5%でした。これが全体的な数値に影響しているでしょうね。

ごはんくん

ええっ、そんなに下がってしまったんですか?だから話題になりやすいんですね。

西森さん

地球温暖化や気候変動という話が出てきたのは、日本では2000年くらいかな。お米への影響というと、2010年の夏がすごく暑くて、新潟県でコメの一等米比率が低下したことがありました。そしてこのあたりから毎年暑い夏が続いています。2023年は特に暑く、気象庁によると夏場は平年の1.76度ほど高く、過去最高でした。2010年はプラス1.1度くらいです。

ごはんくん

うわあ、2023年はそんなに高温だったんですね。コシヒカリは作っている農家さんが多そうだから、影響が大きいのかなあ?
さっき、暑さの影響で増えた質の悪いお米としてお話にあがった”白未熟粒”って、どういう状態なんですか?どうしてできてしまうんですか?

西森さん

きれいなお米の粒って半透明ですよね。でもお米の一部が白く濁っているものが混じっていたりするでしょう。あれが白未熟粒で、コメの細胞にでんぷんが詰まらず、隙間に光が乱反射して白く見える状態です。大きな原因は稲の花が咲いてからだいたい40日間の、登熟期といわれる時期の、特に前半に高温にさらされるためだと研究で分かっています。ほかにも害虫が熟す前の柔らかいお米に針のような口を差し込んで汁液を吸ってしまうことで発生する斑点米も品質低下の一つですね。

作り方の工夫や高温に強い品種への切り替えも考える時代

ごはんくん

このまま暑い夏が当たり前になるとどんどんお米が取れなくなってきて、おいしいごはんが食べられなくなるのでは?と心配していたんですが、どちらかというと気候次第で出来の悪い年もあるということなんですね?

西森さん

今現在ではそうですが、将来にはもっと大きな影響があると思います。農研機構では収量や品質への影響予測を、さまざまな研究グループで継続して行ってきていますが、2021年には「水稲生育収量予測モデル」を作って、収量予測などを行いました。このモデルでは対策を全くしないと今世紀半ばに伸びは止まり、今世紀末には今の水準の80%程度にまで落ちてくるんじゃないかと予測されています。白未熟粒の率も増加して、2000年頃には5%程度だったところから、2050年には20%くらいになる予測です。2021年の予測数値なので、また変わってきているかもしれませんが。

ごはんくん

ええっ、やっぱり将来的にはお米も少なくなって品質も下がってしまうんですね。ショックです…

西森さん

心配なところはありますが、各県での対策も考えられてはいます。例えば田んぼに水を溜めたままにしておくと水温が上がりすぎてしまうので、常に水が流れているようにする「かけ流し」とか、通常より水を深くして水温上昇を抑える等のことは、水が豊富な場所では行われています。肥料でも変わるのでやり方や量を調節したり、あとは植える時期をずらして、一番暑い時期に登熟期がぶつかるのを避けようとしている地域もあります。

ごはんくん

そんな工夫がされているんですね。でもお米がそんなに暑さに弱いとは知りませんでした。

西森さん

弱い品種もあるし、そうでなくても暑くなりすぎると不作の原因になりうるということですね。最近は高温耐性品種ができてきて、それに替えていこうという動きもあります。我々もこの品種だったら品質の低下がどれだけ抑えられる、という研究を今まさにやっているところです。

ごはんくん

どんどんそういう品種に変えていったらいいんじゃないかと思うんですが、そう簡単にはいかないんですか?

西森さん

そうなんですよ。消費者のみなさんにも少し関係するけれど、やっぱりコシヒカリって人気が高いので、農家さんも作りたいんですよね。それに作る方も品種を変えると手入れや育て方が変わるし、コメ作りは地域で先々までスケジュールが決まっていることも多く、新しいものに手を出しにくいところもあるんです。県や大きな農業団体が指導して集団で切り替えに取り組むところもあるけれど、全体が一気に動くのは難しいかなあ。

ごはんくん

そうなんだ…。暑さも気になりますが、水害や台風なんかが多くても収量が減りそうだなと思いますが、どうなんでしょうか?

西森さん

確かに被害地域のコメ作りはダメージを受けます。ただ、稲作は日本全国で行っているので、どこかの一部で被害があっても、全体の収量に大きな影響を及ぼすということは、現時点では考えにくいです。気温については暑すぎる地域もあれば、平年並みの地域もありますからね。

見た目やブランドだけで決めず、いろんなお米を食べていこう

ごはんくん

お米を作っている農家さんや、農研機構さんでは、いろんな研究や取り組みをされていることがわかってきました。そうするとぼくたち消費者にどんなことができるだろうと考えてしまいます。

西森さん

私たち消費者ができる、農家さんへの支援としてもっとも役に立つのは、「お米をおいしくしっかり食べること」です。消費量が減ると、農家さんもこれまでと同じような米作りを続けにくくなってしまうからです。

あとは、ブランドだけでお米を選ばないようにできるといいと思います。例えば、有名なコシヒカリは誕生から60年以上経過しています。今ではおいしい品種もたくさん出てきています。それに安かったり、等級の落ちる米があまりおいしくないというわけじゃない。もちもちした食感やさっぱりした食感など、品種によっていろいろな食味のお米があります。調理法や、いっしょに食べる料理に合わせてお米を選ぶような工夫ができるといいですね。

ごはんくん

食べる方も意識を変えていかないといけないんですね。それにどんなお米があるのかを、もっと知る必要がありそうです。暑さに強い品種だとか、今年はどこのどんなお米がよくできているとか情報を知っていれば、ブランドに関係なく手が伸びるかも。

西森さん

地域によってはその土地での栽培に適したお米を作ってアピールしているところもあります。それに全国で高温耐性のあるコメの品種改良や栽培が広がってきています。この先は土地や気候に合わせて栽培したものが市場に増えてくると思うので、調べて試していただくといいかもしれません。

ごはんくん

それはぜひ注目していきたいです。それにしても農研機構さんは日本のお米づくりにとって、重要なことをたくさん取り組まれているんですね。

西森さん

私たちは農林水産省管轄の研究開発法人です。我々の取り組みの成果は、農林水産省の成果として公表されています。あとは私たちの研究成果がどれだけ実際の米づくりに反映されていくかというところでしょうか。ただ、これまでは20年や30年くらいかけて対策していけばいいよねといっていたのが、今や10年ぐらいでやっていかないといけないですよというほど気候変動は顕著になってきています。今後も農林水産省の協力を得ながら、私たちも貢献していきたいと思います。

ごはんくん

気候とお米づくりについていろいろ教えてくださってありがとうございました。ぼくももっとお米や品種のことを調べて、食べたり伝えたり、おいしいごはんの未来のために活動していこうと思います!


こちらの記事にも、お米の未来のために私たちができることについて書かれています。

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