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おいしいごはんのために、消費者である私たちも考えて行動する時代がやってきた


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私たちにとってこれまではとても身近だったごはん。

でも最近は地球温暖化や担い手不足など気になるニュースがたくさんで、
この先もずっと身近でいられるのかな?と不安になることも。

おいしごはんのために、食べる側ができることはあるのかな?

それを考えるには、今の日本のコメ状況を
もっと知っておく必要があるかもしれません。

そこで、農業経済学や農政学などを研究されている小川真如さんに、
ソラミドごはんくんが教えてもらいにいきました。

小川真如(おがわ まさゆき)先生

宇都宮大学学術院(農学部)農業経済科 助教。大学院地域創生科学研究科も兼任している。農業経済学を専門に、一般財団法人農政調査委員会の専門調査員や、公益財団法人日本農業研究所の客員研究員など、さまざまに活動。個人でも農業関係者へのインタビューを行い、情報を収集している。

日本のコメ問題に関する著書に『日本のコメ問題』(中公新書・2022年)、『現代日本農業論考』(春風社・2022年)、『水田フル活用の統計データブック』(三恵社・2021年)などがある。

ソラミドごはんくん

ごはんが大好き!
ちょっぴりヒツジに似たごはんの妖精。好奇心旺盛で、ごはんのことなら何でも知りたい!聞きたい!見てみたい!と思っている。

日本のコメの政策の課題は、短期的な視点で考えられていること

ごはんくん

この先も日本でおいしいごはんを食べられるのかどうか、今のコメを取り巻く状況や、食べる側の消費者にできることはないか、小川先生に聞いていきたいと思います。

今日本で起きているお米の問題って、何が大きいですか?

小川先生

日本国内の問題としては、コメ消費の減少に関することすべてですね。

食べる人も作る人も減っていて、このままいくと衰退する地域や農村が出てきて生産量が減り、資材など必要なものを買う余裕もなくなり、どんどんやっていくのが難しくなる…というスパイラルになってしまいます。

でも世界では逆に生産量って増えていて、日本での主食用米、つまりごはんになるコメ生産量は年間660万トンくらい(※1)。世界では2017年から2022年の5年間でみるとコメの生産量は2544万トン増加(※2)しているので、年間あたりにすると約500万トンも増加しています。たとえば、ブラジルやアフリカでもコメづくりは盛んなんですよ。

(※1) 農林水産省 農産局「米をめぐる状況について」(令和6年8月) ”米の用途別・年産別面積の推移”より
(※2)国際連合食糧農業機関(FAO)「FAOSTAT」より

ごはんくん

えっ、そうなんですか!? じゃあ、こんな心配をしているのは日本だけ?

小川先生

米を主食にしている国でいえばそうかもしれません。国内外で切り分けて考える必要がありますね。

でも今の日本ではコメの消費も生産も減っているけど、現状は量が足りていないってことはないんです。ただ、「地元産のお米が食べたい」とか、「あの生産者さんの作ったお米を食べたい」ということでなら、この先はそれらが食べられなくなる可能性はあると思います。

ごはんくん

コメの生産全体についてまず教えてください。今のところは国内の量は足りていて、問題はないんですか?

小川先生

政府は「需要に応じた生産」を方針としているので、必要な分を作っているという状況なんですね。ただ私としては、あくまで「国内の短期需要」を満たしている状態であって、長期的に見るとよくない面があると思います。

ごはんくん

例えば2023年の猛暑で不作、米の価格高騰、みたいなニュースも、短期的な意味での危機なんでしょうか。どうして日本は短期需要でのコメ作りになっているんですか?

小川先生

消費者としてはそういうニュースを見ると不安になりますよね。

ところで、「減反」って聞いた事ありますか? 1969年から1977年にかけて、コメ余りの解消のために生産調整で水田を減らしていったんです。これは政府も生産者も最初は短期的なものだと考えていたんです。でも結局コメが余り続いて、1978年以降も続いていって、別の作物への転換も進めたけれど、これも短期的に収支が取れればいいという政策だったので、そのまま尾を引いているところがあります。

長期的な視野がないことで一番影響を受けたのは水田の荒廃でしょう。水田が荒れた後はどうなっているのかは実は詳しく調べられていません。昔から各地域にはそれぞれ水田台帳というものがあるのですが、荒れてしまった田は台帳から消されてしまうことも少なくないのです。そこに住む人たちでさえ、地域の田んぼがどうなっているかわからなくなっている状態が見えてきました。

ごはんくん

国内で、短期需要に対応してきたことで、ぼくたち消費者の生活にはどんな影響がありますか?

小川先生

長期的な食料安全保障の観点がないことですね。

今、日本にある田んぼの半分、50%くらいでしかコメを作ってないんです。通常だと「水田が50%余ってて無駄だよね」となりますよね。でも食料の安全保障面で考えると、どうでしょう。例えば大規模な不作が起こったり、外国から入ってこなくなったとき、残りの50%の水田もすぐには作れないだろうし、作っても他の食料の分までカバーするのは難しいと思います。

あとは、全国各地に産地がバランスよくあればリスク分散できますが、最近は西日本で水田が減ってきていたりします。ほかにも、いざというときは人力でも作れるような、規模の小さな田んぼも残しておいたほうがいい。今は何が起こるかわからない世界状況なので、長期的視野で食料安全保障はもっと考えていくべきだと思います。

ごはんくん

何もないときはいいかもしれないけど、安心しきっていると、もしものときに対応できないのが今のコメ作りなんですね。

消費者は守られる時代から、考えて行動する時代に

ごはんくん

消費者からはどうにもできないことばかりのように思うんですが、おいしいごはんをこの先も食べていくために、ぼくたちができることはありますか?

小川先生

いやいや、消費者って重要なんですよ。役割がどんどん強くなっているというか。

1960年に牛缶の中身がほとんどクジラや馬肉だったという、ニセ牛缶事件があったんです。このあと弱い立場の消費者を守るために、消費者基本法が1968年に施行されました。そこから時間が経って近年は、消費者は守られるだけではなく、責任もあるので自立してね、という流れに法的に変わってきています。消費者は自ら進んで知識を取得したり、情報収集をして、行動していくことを推奨されているんです。

つい最近、食料・農業・農村基本法が初めて改正されて、消費者に対する記載がものすごく増えたんですよ。特に大事な部分を比べてみますね。

(旧)
第12条(消費者の役割)
消費者は、食料、農業及び農村に関する理解を深め、食料の消費生活の向上に積極的な役割を果たすものとする。

(新)
第14条(消費者の役割)
消費者は、食料、農業及び農村に関する理解を深めるとともに、食料の消費に際し、環境への負荷の低減に資する物その他の食料の持続的な供給に資する物の選択に努めることによって、食料の持続的な供給に寄与しつつ、食料の消費生活の向上に積極的な役割を果たすものとする。

ごはんくん

法律の文言なので難しいけど…消費者に求められるものが増えているのはわかります。これってそんなに大事なことなんですか?

小川先生

簡単にいうと、消費者が何を買って食べるかは自由だけど、その中で積極的に選んでください、といってるわけです。業界の人たちからすると、すごく話題になるほどの改正なんですよ。消費者はもう守られるだけの立場じゃない。行動する消費者を社会全体として増やしていこう、という流れができてきていると思います。消費者も動いていくよう促しているのは、社会が前に進んでいる証拠だと思います。

消費者がどんなお米を選ぶかで築く未来は変わる

ごはんくん

誰もが法律を読んでいるわけじゃないし、実感もないけれど、社会がそう変わってきているということなんですね。ごはんに関していうと、ぼくたちが考えてやっていく行動ってどんなことになるでしょう?

小川先生

需要に応じた生産は一方で、各地の生産を育成したり盛り上げたりすることにつながってきたと思います。あるいは商品化が進むとか。コメが国に管理されていた食糧管理法が廃止されたのは1995年でした。それまでは生産者も必要分以外は農協に出荷して、消費者はお米屋さんでしか買えなかったんですよ。つまりコメが均一化された時代でした。

今は農協に出荷するもしないも自由になり、競争が生まれて各地にたくさんのブランド米ができました。最近は暑さに弱いコシヒカリから転換しようとしたり、商社が独自に品種を開発して、生産者さんと提携して生産したり、品種も作り方も多様になってきているんです。

ごはんくん

確かに昔に比べたら、本当にたくさんの種類のお米がありますよね。そうか、実は消費者にとっては選択肢が広がっているぜいたくな時代なんだ。だからこそお米を積極的に選んで食べるっていうことが、さっきの法律の消費者の役割っていうところになるのかな。

小川先生

今はインターネットが発展しているので、生産者さんは「私はこういうお米を作っています」という発信ができるし、消費者も調べれば情報を受け取ることができる。消費者としても味や食感が違う、いろんなお米を食べ比べできる楽しみがある時代といえます。それって実はすごいことなんじゃないでしょうか。

消費が減少しているのは確かです。1人が行動しても変わらないと考えるかもしれませんが、私は逆だと思います。消費量が減っているからこそ、一人一人の判断で築く未来の形が変わる。そんな時代になってきているんじゃないかな。

例えば足りなくなったら海外から輸入したお米でいいのかといわれば、きっとごはんに関しては日本人なら「そうじゃない」って思いますよね?そういう違和感こそ大事にしたいことなんです。自分で商品として選ぼうという時代に変わってきているのだから、積極的に選んでいきたい。個人で農家さんとつながるのもいい。個人でも食料の安全保障を意識していかないといけない時代ともいえますね。

ごはんくん

そう聞くと、ぼくたち消費者も日本のおいしいお米のために役立てる気がしてきました。

小川先生

消費者がどんな生産者やコメを選ぶのかによって、未来のコメ作りって変わるし、地域の風景だって変わると思います。

身近な水田や風景を残すためには、大きな産地以外にも、各地のコメや生産者さんに想いを馳せる必要性がある。環境負荷の少ない有機農業や特別栽培米(農薬や肥料を低減している米)を選ぼうとか、地球温暖化で暑さに弱いコシヒカリが採れなくなってきたから、他のコメも食べ比べて選ぼうとか、それだけでもいいんです。

今は生産者の顔が見える時代。「この人面白そうだからいいな」「応援したいな」というのも感じて選べる。法律にある責務とか、消費者の役割ってそういうことなんじゃないかな。国は国でやっていかなくてはならないことはたくさんあるけれど、消費者のみなさんにはそんな風に行動していって欲しいと思います。

ごはんくん

ソラミドでは個人の生産者さんを応援して、いろんなお米を紹介しています。まさにそういう想いを伝えていけたらいいなあと思っているので、とっても参考になりました。小川先生、ありがとうございました!


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